日本経済新聞


2009年11月19日(木曜日)


阪神大震災15年
被災手記”仲間”語り合い

 阪神大震災から10年続けて発行された手記集の投稿者を招く初の集いが震災15年となる来年1月、
神戸市で開かれる。6000人を超える被災者が、亡くなった肉親への思いや生活再建の苦労をつづったきたが、
顔を合わせて語り合うつながりはなかった。発行元と協力して集いを企画した寄稿者の男性は「一人ひとりが
歩んできた軌跡と苦難を分かち合い、被災体験を伝える大切さを確認した」と話している

 初めての集いを計画しているのは神戸市中央区の貿易商、綱哲男さん(82)。
「阪神大震災を記録しつづける会」が2005年まで発行した手記集に、仮設住宅での生活やその後の暮らし
ぶりなどをテーマに計9回投稿してきた。
 計画のきっかけは今年3月、手記集の発行者だった故高森一徳さんのめいで大阪大大学院生の高森順子さん(25)が
手記の研究のために綱さんを訪問したことだった。
 綱さんが執筆の動機や震災当時の状況を高森さんに話しているうちに、「寄稿者が集まり、近況を報告し合う催しが
できないだろうか」という構想が生まれたという。
 震災で綱さんが住んでいた神戸市東灘区の自宅は倒壊。妻の千代子さん(75)と2人で親せき宅を転々とし仮設住宅
での生活は3年を超えた。
 復興住宅に入居できたものの、被災前の地域コミュニティーから切り離された暮らしにはなかなか慣れず「手記を毎年書く
ことが生活を見つめることに役立ち、心も落ち着いた」と振り返る。
 高森さんによると、手記集への投稿は10年間で600人を超えるが、これまで寄稿者同士の横のつながりは、ほとんどなかった。
避難所や仮設住宅などから文章を寄せた人が多く、現在では連絡の取れなくなっている人も少なくないという。
 手記作りの経緯を通じ、市民の目線で歴史や事実を語り継ぐ重要さを実感したという綱さんは01年から、小学生に戦争
体験を伝える語り部の活動も始めた。震災から10年の05年には手記を書き加え「阪神大震災を超えて-第3の人生」という
自叙伝を自費出版した。
 綱さんは「手記に思いや心情をまとめたことで、苦しかった被災後の人生観が前向きに変わった人も少なくないはず。
震災体験を共有する人々がゆっくりと近況を語り合い、新たなきずなを結びたい」と話している。
 集いは来年1月下旬に神戸市中央区の兵庫県民会館で予定している。問い合わせは「阪神大震災を記録しつづける会
事務局」の高森さん(0794・89・8455)まで。