手抜き工事

 藤原 久義 六十六歳 病院勤務医 神戸市中央区 



 十五年ほど前に自宅を建てた。敗戦の前後に、名古屋大地震と南海大地震に遭遇した私は、建築業者に約五割増しの耐震強度設計を依頼した。しかし、たびたび現場に足を運んでいると、欠陥工事が素人目にも分かった。
 鉄筋コンクリート造りの建て物の場合、基礎工事のコンクリートを打つ前に、住宅金融公庫が鉄筋の配筋検査を要求する。普通、検査は建築業者が代行するのだが、わが家の場合、市役所の若手建築技師が、研修を兼ねて検査に来てくれた。是正を要する工事箇所を指摘してくれたが、建築基準法の法規に示された「鉄筋の縦筋と横筋の緊結」をしていない箇所が多数見つかった。鉄筋の緊結は手間のかかる仕事なので、手抜きしたくなるのだろう。基礎部分だけで三、四十箇所の緊結の手直しをした。
 しかし、建築業者はこの教訓を活かさず、四階屋上まで緊結の手抜き工事を続けた。コンクリートを流し込めばバレないと思ったのだろうか。幸い勤務場所が近かったので、コンクリート打ちの直前に連絡を受け、鉄筋の緊結不全を中心に手抜き工事の手直しをさせた。ところが、三階部分だけは、私の仕事の都合で立会点検ができなかった。そのため、後日クラックが数十箇所にでき、鉄筋にさびが発生して、大修理が必要となった。
 このような体験から、私は阪神大震災で破損したコンクリート構造物が気になった。写真1は、ポートライナーの橋脚部分(三宮駅の南)だ。縦筋と横筋が緊結されず、横筋が地震の振動ではずれてまくれ上がり、コンクリートを剥離し、脱落させている。コンクリートが脱落した部分は支持力が低下し、横方向に切断され、橋脚が傾斜している。
 写真2は、阪神高速道路のJR神戸駅南東部である。緊結されなかった横筋二本が垂れ下がり、横筋間隔が広がり、それに伴うコンクリートの剥離で支持力を失った縦筋が膨らんでいる。
 写真3の現場は、写真2の近くだ。支柱の付け根部分の緊結されていなかった横筋がずれ、縦筋はラーメンのように曲がっている。写真4は、中央区役所の一部だが、縦、横筋の緊結されていない部分を中心に破損している。写真5も同様だ。
 地震の当日、阪神高速道路(倒壊部分より西部)下の国道43号線を走った。大渋滞だったので、車から降りて高速道路の支柱を見た。十数本は、支柱の付け根部分から傾斜していた。セーターを脱ぐように、横筋五、六本が上方にまとまってまくれ上がり、コンクリートが剥離し、縦筋が写真3のように曲がっていた。翌日、写真撮影をしたが、フィルムが行方不明になり残念だ。
 このように、鉄筋の緊結を手抜きしたため重大な結果を生じている箇所もあるのではないだろうか。震災復興の工事現場で、ときどき足を止めて、私なりにわかる欠陥工事の有無を見ている。良心的に建築されている工事現場がある半面、手抜きや欠陥工事を見かけて不安になる。阪神大震災からの教訓は得られなかったのか。建築業者に良心を期待するのが無理なら、施主は自分で勉強し、自衛しなければならない。