区画整理

          松本 伸子 三十五歳 自由業 芦屋市呉川町

 一月十七日の悪夢のような何秒間かで、思い出のぎっしり詰まった我家の一階がなくなり、二階の部屋が傾いたまま、地面に落ちてしまいました。芦屋市内の中でも、最も倒壊率の高かった町に住んでいながら、家族みんなが、けが一つなく助けられたことが不幸中の幸いでした。
 その日から過ぎてゆく日は、とにかく無我夢中でしたが、きっといつか落ち着いた生活に戻れると信じていました。そして、もちろん、また大きな問題に直面しなければならないなどと想像もしていなかったのです。
 一カ月が過ぎ、そして二月二十三日。
 市から何かの説明会があるとご近所の方からうかがい、公園へ行ってみたのですが、配られたプリントには「区画整理事業」「減歩」「精算金」「換地」等という今までに見た事もない言葉が並んでいました。
 何だか訳のわからぬまま、とにかく市の担当者から説明を聞きました。それによると、減歩というのは、大きな道路や公園をつくる為に市が住民から無償で提供させる事、また、精算金とはマンションその他、土地を提供できない人は、その分のお金を出すという事でした。そして、換地、それは区画整理事業を行う為にほとんどの家が移動するわけで、そのはめ込まれる場所、土地のことのようでした。
 あまりに突然の事に、唖然としていましたが、市の担当者は、とにかく、このような区画整理事業を進めるので協力してくださいという姿勢でした。そして説明会とは言っても、まともに住民への通知もなく、その地区に残っている人など、ほとんどいない状態の中でのものでした。
 減歩や精算金という負担に対しては、区画整理後に美しい町、防災に強い町になれば、土地価格が上がるので同じ事ですという説明がありました。自分の住む町がきれいになるのをいやがる人は、まず、いません。ただ、それを行う時期と手法が大きな問題なのです。
 震災で物はもちろん、家、そして大切な家族を失った人も多数います。そんな苦しい私達に減歩・精算金・換地を必ず伴う区画整理事業という手法で町を復興させるのは、どうでしょうか。これは決して理屈だけで考えていてわかるものではないでしょう。おなじ目にあって初めて私達住民の思いをわかってもらえるのかもしれません。
 市側の説明会の後、二月二十八日から二週間、計画案の縦覧があり、そこには、今までになかった大きな公園と三倍近くに広がった道路の絵が示されていました。なお、その間に意見書を知事と市長宛に提出できるとの事でした。
 しかし、それも今考えると、あくまでも形式だけのものではなかったのかと疑問に思っています。市側の話を聞いていると、震災で家が倒壊したのを良い事に、良い機会だと言わんばかりに区画整理をするのではないかという気がします。
 しかし、こんな大きな事業をする場合、長い年月をかけて話し合い、お互い了解しあった上で実行していくものではないでしょうか。
 町がきれいになるのだから、いいじゃないですかと言う人もいます。でも、住民の欲しいと思わない大きすぎる公園や広すぎる道路の為に、換算すると相当の額になる減歩、精算金を出さなければならないのは納得いきません。もう一度、原点に戻り、住民と共に検討する事がどうしてできないのかと素朴な疑問が残ります。こんな大地震の後、前例もないなかで、復興事業を考えていく行政側もさぞ大変だと思いますが、それ以上に、区画整理事業を一方的に押し付けられた住民の気持ちを、自分のことに置き換えて考えてみて頂きたいのです。
 広すぎる公園や道路は要りません。道の狭い所は公費で買い上げるべきです。
 区画整理という手法で復興事業をすると国から補助金が受けられるということですが、そんな事よりも、これだけ多くの住民が区画整理事業に反対していることを忘れられては困ります。
 前の土地に戻っても、いつかまた移動しなければならないという不安……。そういう不安のない、落ち着いた生活に戻りたいのです。


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