ブロック・ペアレント

  マーガレット・ミラー 三十歳 学生 東京都新宿区(アメリカ)


 毎週、私は新聞記事を切り抜き、東京を襲うと予告されている大地震のための救難セットに加える品物のリストを作っている。
 それには、チョコレート・レーズン、歯ブラシ(オプション)、ろうそくとマッチ、ウインドブレーカー、シチュー・ミート一缶、クレヨンとスコッチ・テープ、ピンセット、荷札、インスタント・ラーメン、作業用手袋などが含まれている。
 今や私はリストの収集については万全だが、私が用意している現実の地震セットは、懐中電灯、ミネラル・ウオーター、外国人登録証のコピーだけだ。東京の中心部にある私のワンルーム・マンションの大きさを考えると、これが現実問題として備蓄できるすべてだからだ。
 私は情けない思いで追加リストを増やし続けている。ビニール・シートまたは防水シート、ポータブル・ラジオと予備の電池、良書、シャベルと手斧、ベビー・キャリアなどなど。
 友人の一人は、少しふまじめだが、狭苦しい地域に住む私たちにふさわしい地震の準備を提案している。「いつもバスタブに水を満たし、胃袋には食物を一杯にする
」。
 しかし、実際問題として、神戸で傷付き、肉親を亡くし、避難している人々の姿を何時間ものテレビ報道で見た後、なぜ私は自分の安全に無頓着でいられるのだろうか。私はある晩スポーツ・クラブで、「ステア・マスター」(階段状の運動具)に登り、テレビで焼け出された人たちの映像を見ながらあることを思い出した。
 私が米国で育った時、PTAの役員の有志は「ブロック・ペアレント」になれた。この意味は、彼らの家が、学校の行き帰りに緊急の助けを必要とする近所の生徒に対する安全な天国となるということである。私たち子供は、彼らが家の窓に掲示する「ブロック・ペアレント」のシールの意味を知っていた。
 このシステムは東京にも利用できるのではないだろうか。私が地震対策の救難セットを完成させたとしても、最も必要なのはこのような危機における人との交わりである。
 私はその夜、フィットネス・センターで私のブロック・ペアレントを決めた。フィットネス・センターの会員で、理髪店を営む熟年のご夫婦がいる。彼らはいつも私に親切で、エアロビクス・ミュージックの大きな騒音ごしに雑談し、時には私を仕事の後のビールに誘ってくれる。彼らは緊急時に必ず私を助けてくれるだろうし、私も彼らを助け出すつもりだ。東京大地震の後に略奪が起こったとしても、私はヘヤスプレーを略奪者の目にまっすぐに向けて彼らの店を守る。
 私の今一つの選択肢は日本を離れて国に帰ることである。しかし、私の故郷は地震の起こりやすいロサンゼルスに近いので、東京にとどまり、必需品を含む以下の地震用セットを用意することにした。
 ミネラルウオーター、外国人登録証のコピー、懐中電灯、ヘアスプレー、友情という命のミルク。