易 断 例



『未斎流 易』(伊藤 未斎著)、日本出版企画刊)には、64卦すべての易断例が収められています。

ここでは、別の1例を紹介します。

「地震の発生時対策」


もうすぐ阪神大震災が起こってから丸4年になります。日本は地震列島です。都市直下型大地震は、つぎにどの町を襲うか分かりません。

その発生時対策を考えてみましょう。

易断に入る前にまず、この課題について説明します。

この課題は「危機分析」です。「危機分析」は、通常、予防対策と発生時対策に分かれます。

ところが、地震については予防対策はありませんので、発生時対策が課題になります。

これとは逆に、「自分の死」という「危機分析」においては、ほとんどの人は予防対策だけを考えます。

発生時対策は、生命保険と葬式の段取りくらいしかないでしょう。

このように、「危機分析」をする場合には、予防対策と発生時対策に分けて課題を絞ると、考えやすくなります。

阪神大震災では、転倒した家屋や家具の下敷きになって亡くなった方々が大勢います。

木造家屋に住む人は2階に寝る、家具に転倒防止金具をつける、などの対策が必要です。

また、救難治療セットも必要です。下敷きなった人を救助するための、手袋やシャベルも欠かせません。

食料は1日分準備すれば十分です。

他地域からの救援が来ますし、水さえあれば、人は1週間の断食にも楽に耐えられるからです。

震災マニュアルが何種類も出版されていますから、それを見て、自分のライフスタイルにあった、救難セットを準備しましょう。

ここまでは、合理的思考によって、易断をするまでもなく判断できます。

このような合理的思考は、易断の前に絶対に必要です。

次に、太極的世界観で阪神大震災を分析してみます。発生した災害(陽)だけでなく、発生しなかった災害(陰)はないかと考えます。

阪神大震災は早朝に発生したため、新幹線も電車もほとんど走っていませんでした。

高架の高速道路にも車が少なかったので、あの程度の被害で済みました。これらの対策で、私には思いつくものはありません。

しかし、幸いにも一般道路で地震に遭った場合には、いち早く車から出て、渋滞した車が次々と炎上する災害からは逃れるという対策は思いつきます。

また、阪神大震災はほとんどの家族が家にいるときに発生しました。

日中、家族が離れ離れのときに地震が発生したとしたら、精神的パニックを起こす人が大勢出るでしょう。

携帯電話を持つとか、緊急時の連絡方法を話し合っておく必要があります。

震災はマイナス(陰)の要素ですが、プラス(陽)の要素もあります。

地震直後は、同じ臨死体験をしたという共感から、人は他人に優しくなり、平常時では考えられない支援をするようになります。

「火事場どろぼう」がまったくいないわけではありませんが、ほとんどの人が、「よい人」になります。

すべてを自分で解決しなくても、支援の手は必ず差し伸べられます。

ここで、はじめて易断に進みます。

わたしの得卦は雷山の五爻でした。大成卦が雷山小過、之卦が沢山咸になります。

「小過」というのですから、震災で「何か少し過ぎたこと」がなかったかを、検証しましょう。

励ましの言葉や支援がそうです。

深刻な被害に遭って落ち込んでいる人に、「頑張ってね」と声をかけると、人によっては、「現在の努力では不十分だから、もっと努力しなさい」というメッセージと受け取り、更に落ち込んでしまいます。

善意で言ったことが逆効果になることがあります。

適当な言葉が見つからないのなら、宮沢賢治のように、一緒になって悲しんだり、オロオロする方が意味があるのかもしれません。

また、地震直後はありがたかった物資の支援は、落ちついてくると、商店や自営業者の事業の再建を妨げます。

ボランティア活動には、被災者の自立を支援するという視点が大切です。

一時的な思いつきや善意だけでなく、継続的に、被災者の自立のためのお手伝いをしたいものです。

被災者も、物資や善意を一方的にもらうだけでは、癒されません。

自分が家庭や社会の中で何ができるかを見つけ、そのふれあいの中で生きがいを見つけなければ閉塞感からの出口はありません。

之卦の沢山咸から、震災後の課題を考えてみましょう。

咸は感と同じ意味を表しますが、下に心がありません。

自我や先入観なく他と感応し合うと言う意味です。

阪神大震災の教訓から、近隣との日頃のコミュニケーションが、大切なことが分かります。

地震直後には、消防も警察も機能しません。

家族とご近所で、倒壊した家屋に閉じ込められた人々を救い出さねばなりません。

そのとき、その家に誰が住んでいるか、寝室はどこにあるのか、日頃のおつき合いがものを言います。

現代の都市生活では、プライバシーが優先され、「隣は何をする人ぞ」という状態ですが、うっとうしくとも、最低限のコミュニケーションは保っていた方がよいでしょう。

肉親や親戚は当てになりません。震災同居は長続きしません。

もともと、理由があって別居していたのですから、うまく行かないのが当たり前です。

近隣とのおつき合いがどうにしても苦手な人には、同窓会や趣味や仕事を通じた友人との交友をお薦めします。

試練に立たされたとき、心の支えになるのは、このようなネットワークの輪の中の人々の励ましやまなざしです。

このように易断は、

    1. 合理的思考

    2. 太極的世界観での分析

    3. 得卦と之卦を啓示とした判断

                      
というステップを経て、思考の拡大を行います。

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